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広島地方裁判所 平成元年(ワ)563号 判決

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金二一〇三万七五六八円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、言渡しの日から一週間を経過したときは、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  申立て

一  原告ら

1  被告は、原告らに対し、それぞれ金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二  事案の概要及び基本的事実関係

本件は、原告ら夫婦が、同人らの長男である飯田哲也が、被告設置に係る広島大学医学部附属病院において陰嚢水腫の手術を受けた際、担当医師らの不適切な治療によって死亡したと主張し、被告の診療契約上の債務不履行ないし不法行為を原因として、被告に対し損害賠償を求めている事案である。

一  当事者(争いがない事実)

1  原告飯田恵及び原告飯田千恵(以下「原告千恵」という。)は、後記のとおり、本件手術後に死亡した飯田哲也(昭和六一年九月一一日生、以下「哲也」という。)の父母である。

2  被告は、広島大学医学部附属病院(以下「被告病院」という。)を設置し医療業務を営むものである。

二  診療契約の成立(争いがない事実)

後記のとおり、哲也が被告病院に入院し、陰嚢水腫の手術を受けるに当たって、哲也の法定代理人である原告らと被告との間において、被告病院は医療機関として最善の注意義務を尽くして哲也の治療に当たる旨の診療契約が成立した。

三  診療の経過(争いがない事実、《証拠略》)

1  哲也は、原告千恵に伴われて、昭和六三年七月一一日、広島記念病院小児科で受診し、陰嚢水腫又は鼠径ヘルニアと診断され、同病院の紹介により、同月一二日、被告病院第一外科で診察を受けた。

被告病院の担当医師は、哲也の病名を右陰嚢水腫と診断し、原告千恵に対し、しばらく様子を見て治癒する傾向がなければ手術をした方が良い旨説明した。

2  哲也は、同年一〇月一八日、被告病院第一外科で再び診察を受けた。

担当医師は、初診時に比較して陰嚢の縮小傾向がなかったことから、同伴した原告千恵に対し、哲也の病状、治療方針、今後の手術の必要性等を説明し、手術実施(一一月一日入院、同月二日手術予定)の承諾を得た。その際行われた術前検査(血液、尿検査、胸部レントゲン検査)の検査データは、正常値の範囲内であった。

3  哲也は、同月二七日、指示に従って被告病院麻酔科に受診し、術前検査の評価と術前診察を受けた。その際、軽度の風邪様の症状があったが、手術の予定日の前日入院で麻酔及び手術が可能と診断された。

4  哲也は、同年一一月一日午前一一時四〇分、被告病院第一外科に入院した(八三二〇号室に収容)。

その際の陰嚢部の局所所見では、睾丸は両側とも異常はないが、水腫は五cm×四cm大に腫大し、弾性は軟で、圧迫による大きさの変化はなく、透光試験の結果はプラスであった(当日の計測によると、哲也の体重は一一・四kgである。)。

なお、哲也について軽度の鼻汁が認められたため、担当医師は、同日午後、アスベリンシロップ(鎮咳去痰剤)二ml及びペリアクチンシロップ(抗ヒスタミン剤)四ml(一日四回の分服)を投与した(ともに水剤で一回分合計一・五mlとなる。)。

5(一)  同月二日午前八時過ぎころ、哲也は、原告千恵が目を離したすきにベッドから転落して頭部付近を床で打ったが、原告千恵はこのことを医師ないし看護婦に伝えなかった。

(二)  哲也は、同日午前八時三〇分ころ、手術室に入った(以下、哲也が回復室を出るまでの時刻の表示は、手術棟備付け時計のそれによる。後記認定のとおり、哲也が回復室を出たのが午前一〇時五五分であるのに、一般病室に帰室したのが同五二分とされているから、手術棟備付けの時計は一般病棟備付けの時計より数分進んでいたものと判断される。)。

麻酔実施に際し、同人について、軽度の鼻出血(既に止まっていた。)がみられたため、麻酔担当医師は、気管内挿管による全身麻酔(吸入麻酔)と硬膜外麻酔(仙骨麻酔)を併用した。

すなわち、午前八時三〇分からマスクによってガス麻酔薬(ハロセン・笑気・酸素混合)を吸入させ、午前九時に局所麻酔薬(キシロカイン四%)のスプレーをした上、気管内チューブを挿管し、午前九時九分に仙骨麻酔(カルボカイン注入)を実施した。この間のハロセンの濃度は、導入開始時ゼロから約一〇分間にわたり徐々に二・五%まで上昇させ、その後、二%で二〇分間維持し、気管内挿管後は一%に、午前九時一五分には更に〇・六%に順次濃度を下げ、午前九時二〇分ころから手術終了の午前一〇時一〇分ころまでは〇・四%を維持した。

(三)  午前九時一七分ころ、哲也に対する陰嚢水腫の手術が開始された。

同人の水腫は、かなり大きく液貯留が著明であった。手術担当医師は、水腫を切開し、内腔より検索したところ、腹腔との明らかな肉眼的な交通は認められなかった。更に詳細に検索すると径三ミリのサック(腹膜鞘状突起の遺残)があったので、高位結紮した。水腫壁を切開、解放し、出血点を結紮止血して、午前一〇時七分手術を終えた。

(四)  麻酔担当医師は、手術終了とともにハロセンと笑気の投与を中止し、酸素のみの投与を継続した後、午前一〇時二〇分、気管内チューブを抜管した。その際、担当医師は、哲也の状態(応答、眼瞼反射、嚥下運動、バッキング、喉頭痙攣、チアノーゼ、嘔吐の有無)を確認した。

徐々に覚醒した哲也が上半身を起こそうとするなど興奮のため安静にできないので、午前一〇時二五分、鎮痛及び安静を保つ目的で哲也に対しペンタゾシン七・五mgを三方括栓から静脈注射した。これによって哲也は鎮静し、ベッド上に静かに横臥する状態となった。

(五)  その後、暫時哲也の状態を観察した麻酔担当医師は、呼吸、循環とも安定している(呼吸数毎分二五回、脈拍数毎分九五、最高血圧八五mmHg)ものと認め、午前一〇時四〇分、哲也を手術室付設の回復室に移動させた。

同室内で概ね一〇分余り哲也を観察した後である午前一〇時五五分、担当医師は、呼吸循環状態に変化がなく、その一般状態(応答、咽喉眼瞼反射、興奮、シバリング、エアウエイ)を良好と認めて、病棟に帰室することを許可した。

6(一)  哲也は、午前一〇時五二分(以下の時刻の表示は、病棟備付けの時計による。)、第一外科担当医及び看護婦に付き添われて、点滴を続行しながら病室(八三〇六号室、ベッド数六の一般病室)に帰った。帰室時の計測によると、血圧九二ないし五〇mmHg、体温摂氏三六・二度、脈拍数毎分九〇回、呼吸数毎分三〇回であった。看護婦は哲也に肩枕(タオルを八つ折りにしたもの)を挿入した。看護婦の観察によると、哲也は、口唇色がやや白っぽいがチアノーゼはなく、四肢に触れると温かく眠っていた。呼吸循環状態は安定していた。

(二)  その後の巡回看護婦の観察の経過等は次のとおりである。

(1) 午前一一時、哲也について軽度の喘鳴が認められたが、両肺の呼吸音は良好で、呼吸数毎分二八回、顔色良好であった。

(2) 午前一一時二〇分、哲也の状態は、呼吸数毎分二六回、軽度の喘鳴が認められた。

(3) 午前一一時四〇分、哲也の喘鳴が続くため、看護婦が口腔、鼻腔の吸引を試みたところ、白色分泌物が極少量吸引された。この吸引時、哲也は薄目を開けたと記録されている。

(4) 午前一一時四五分、哲也は、入院時に処方されていたアスベリン・ペリアクチン一・五mlの経口投与を受けた。付き添っていた原告千恵が哲也を抱き抱え、看護婦が同人の口に薬剤を流し込んで飲ませたものであるが、看護記録には「うす目をあけ、上手に嚥下する」と記載されている。

(5) 午前一一時五五分、哲也には、なお軽度の喘鳴が認められた。

(6) 午後零時、哲也は口唇色がやや白っぽいが、チアノーゼはなかった。

7  午後零時三分、担当の看護婦は、哲也の口唇色が蒼白で自発呼吸が止まっていることに気がつき、直ちにタッピング(胸部を手掌で軽く叩き刺激すること)し、吸引器で口腔内吸引を行うとともに看護婦結所に連絡し、医師二名が病室に急行した。

医師らは、哲也の呼吸停止を認め、大腿動脈の脈拍を触知できないため、直ちに心マッサージと人工呼吸(マウス・ツー・マウス)を開始した。これにより間もなく口唇色は改善したが、脈拍は触知できなかった。

午後零時七分、気道確保のため、気管内挿管を行い、アンビューバックを用いた人工呼吸を開始し、さらに、午後零時八分、人工呼吸、心マッサージを続行しながら機器類の搬入や多数の医師、看護婦が診療に当たるのに便利な患者観察用の個室(八三二三号室)に移動した(この間一五秒余りを要した。)。気管内の痰等気道分泌物の排除のため気管内吸引を行ったが何も吸引されなかった(カルテには「吸引するもdry」と記載されている。)。

8  午後零時一〇分、心電図モニターを装着し、ボスミン(アドレナリン)一〇分の一アンプルとソルメドール(メチル・プレドニゾロン)を静脈注射したところ脈拍も触知できるようになり、一、二分後心電図モニターで心拍数毎分一四〇回が認められた。

午後零時二〇分ころ、動脈血を採取し、ガス分析を行うと、PH六・七八六、PCO2(二酸化炭素分圧)六七・七mmHg、PO2(酸素分圧)一〇五・三mmHg、BE(ベースイクセス)マイナス二四・七と呼吸性アシドーシスと著明な代謝性アシドーシスを認めたので、それらの補正、改善のため、純酸素による人工呼吸とソルメドロール一〇〇mg追加投与及びメイロン(重炭酸ソーダ、代謝性アシドーシスの補正剤)一〇〇mlの点滴投与を行った。その結果、脈拍数毎分一四四回、血圧一〇〇ないし五四mmHgに改善された。

午後零時四〇分ころ、動脈血を再度採取し、ガス分析を行うと、PH七・五一、PCO2一九・七mmHg、PO2六九一・九mmHg、BEマイナス五・五で顕著な改善を示した。

午後零時三五分、人工呼吸器使用を開始した。しかし、この時点で哲也の瞳孔は散大し、反射も認められなかったことから、脳障害の可能性を考え、専門医の往診を得た上、午後一時、脳保護療法(アイオナール、マンニトール、ステロイドの投与)を開始した。このときには血圧、脈拍は安定していた。

9  午後二時二〇分、原告ら家族に哲也の病状についての説明が行われた。

その際、原告千恵から、同日朝、哲也がベッドから転落したことが病院側に伝えられた。そこで、医師らは頭部打撲による頭蓋内出血の可能性もあると考え、脳外科医が診察し、直ちにCT検査を行った。その結果、くも膜下出血の可能性を否定できないとの示唆があったため、脊髄液検査を実施したが、出血は認められなかった。また、同時に行った眼底検査でも頭蓋内出血を示唆する所見はなかった。そのため、頭部打撲による手術適応となるような頭蓋内出血の可能性は少ないと判定し、そのように家族にも説明した。

10  その後、哲也に対しては、脳保護療法が行われることになり、同月四日からは哲也を集中治療室に転室させて、引き続き治療が行われたが、同月五日ころからは脳波はフラットとなって脳機能は全く停止した状態となった。

同年一二月二九日からは、再び第一外科病棟にて治療を続行したが、肺合併症を併発し、ついに平成元年三月四日午後五時四六分、呼吸不全、腎不全による心不全のため哲也は死亡した。

11  右死亡当日及び同年三月一五日、被告病院の医師による原告ら家族に対する説明が行われたが、哲也の死因については、明確には解明できないものの、小児の突然死症候群と考えられる旨の見解が述べられた。

四  本件の争点

1  被告病院の医師及び看護婦らに哲也の診療について診療契約上の注意義務違反又は過失(手術適応の誤り、説明義務違反、鎮静剤の過剰投与、麻酔管理の誤り、風邪薬の早期投与、救急措置の不適切等)が認められるか。

2  右が肯定されるとして、それによって原告らが被った損害額。

五  争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 診療契約上の注意義務違反又は過失

(1) 手術適応の誤り

陰嚢水腫は、一般的に自然治癒率が高い疾患であり、ヘルニアの合併がない限り、四歳すぎまで経過をみていてよいとされているだけでなく、哲也の症状は、手術の結果からみて、鞘状突起に交通性のないものであったことからすると、自然治癒が十分期待できる状態にあった。

ところが、被告病院では、哲也が二歳になった時点で手術を実施したのであるから、本件手術は適応のない(時期尚早にして不必要な)ものであった。

(2) 説明義務違反

被告病院担当医師は、原告らに対し、二歳までに治らなければ手術する必要があること、手術はその日の夕方には帰れるような簡単で安全な手術であること等のみを説明し、手術する場合、万が一のときは死亡する危険性もあることや、手術しなくても命に別状はなく、自然に治癒する可能性が高いこと等は全く説明しなかった。

右の諸点について正確な説明がされていれば、原告らは本件手術に承諾を与えなかったものである。

(3) ペンタゾシンの過剰投与

ペンタゾシンの使用上の注意として、副作用として呼吸抑制がみられること、乳児、小児への投与に関する安全性は確立されていないので、投与はしないことが望ましいとされている。

また、ペンタゾシンは、麻薬系鎮痛剤であるが、一般に小児は麻酔系鎮痛剤には過敏なので、体表面積法で決められた量よりも少ない投与量から開始しなければならない、麻薬系鎮痛剤は、呼吸抑制作用を有するため、できれば他の鎮痛剤を用いて効果をみてから使用することが望ましいとされており、投与量についても、三歳児で筋肉注射で五mgを使用し、静脈注射の場合、筋肉注射のときの五分の一ないし四分の一の量を五分以上かけてゆっくりと注射するとされている。

ところが、被告病院では、午前一〇時二五分、麻酔から覚醒しつつある哲也に対し、ペンタゾシン七・五mgを側管から静脈注射したものであって、これは二歳児に対する静脈注射量としては過量であり、投与すべきものではなかったというべきである。

(4) 麻酔管理の誤り

哲也から気管内チューブを抜管した時期が早期にすぎ、また、哲也の回復室から病室への移動も早すぎる。

すなわち、全身麻酔を行った患者の抜管及び病室への移動は、気道の分泌物・血液・吐物がなく清浄で自発呼吸が回復した後でなければならない。

しかるに、哲也は、手術室付設の回復室へは抜管から二〇分後の午前一〇時四〇分に入室し、午前一〇時五二分に病室へ帰室となっていることから、病室への移動に要した時間も加味すると回復室にいた時間は一〇分足らずということになるが、手術室において抜管から五分後の午前一〇時二五分にペンタゾシン七・五mgが静脈注射されていることから考えて、回復室には少なくとも三〇分は滞在させて患者の状態を観察すべきものと考えられる。

右事実によれば、担当医師は、哲也の意識が回復しないうちに抜管し、回復室にも一〇分程度しか留め置かず、早急に病室に帰室させたために帰室後の異常に対処できなかったものというべきである。

(5) 帰室後のバイタルサインの観察・記載の不備と必要な処置の不履行

被告病院の記録には、帰室後の午前一〇時五二分すぎの時点における血圧、体温、脈拍及び呼吸数の記載はあるが、その後、正午までの間、前記の各項目を網羅したバイタルサインの記載はなく、前記の程度の喘鳴、呼吸数、あるいは顔色についての記載があるにとどまっている。

このような記載は、抜管及びペンタゾシン静脈注射後の時間経過からみて、術後の観察・記録としては、不十分、不適切である。

そして、前記の被告病院の記録からすれば、肩枕挿入は、舌根沈下のおそれがあったためとみるべきであるし、何度も記載されている喘鳴も、舌根沈下のための気道狭窄による乾性音と推認され、さらに、口唇やや白っぽい、顔色やや白っぽい等の記載も酸素欠乏ないし末梢循環不全状態にあったことを示唆しており、バイタルサインに関する記録が密にされていれば、これらの原因がより明確となり、これに対する処理(気道の確保、人工換気等)も早期に実施されたはずである。

(6) アスベリン・ペリアクチンの投与時期の誤り

哲也が投与を受けたアスベリンシロップとペリアクチンシロップの量については、お酒のおちょこに八分目くらいあったもので、一・五mlより多かった。

そして、哲也が前記シロップを飲まされた午前一一時四五分は、抜管から一時間二五分後であり、ペンタゾシン七・五mgを投与された一時間二〇分後である。

その間の哲也の状態についての看護記録の所見、とりわけ午前一一時四〇分に口腔、鼻腔吸引を行った際、少し薄目を開けたという事実は、咳嗽反射、嚥下反射などが抑制されていたことを物語り、この時点において、哲也は麻酔から完全に覚醒していたとはいいがたく、特に、ペンタゾシン七・五mgが静脈注射されていることから、半覚醒の状態にあったことを強く示唆しているものというべきである。また、本件手術前には喘鳴はなかったのであるから、帰室後の喘鳴は、風邪や気管支炎によるものではなく、半覚醒状態での軽度の舌根沈下による気道狭窄であった可能性が大きいのである。

このように半覚醒状態で喘鳴があり、軽度の舌根沈下による気道狭窄が疑われるような時期にアスベリン・ペリアクチンを経口投与することは、適応にも問題があり、必要性がなかったと考えられる上、効果発現までに時間がかかり危険性の高い経口投与という方法を選んだことは重大な過失があるものというべきである。

(7) 救急措置の不適切

ア 午後零時二〇分までの救急措置の不十分性

哲也の午後零時二〇分の前記の血液ガス分析の結果は正常値に比較して極めて悪い数値であり、アシドーシスの状態が続いていたといわざるを得ず、このことは、午後零時三分以降の哲也に対する救急措置(心マッサージと人工呼吸)は不十分で必ずしも有効でなかったことを裏付けるものというべきである。

イ 一般病室から個室への移動時期の不適切

担当医師らは、哲也を午後零時八分に一般病室(八三〇六号室)から個室(八三二三号室)に移動させている。しかし、心マッサージを有効に実施しつつ移動を行うことは困難であるから、毎分一四〇回の心拍が出現した午後零時一〇分ないし一五分の直前という循環動態の極めて不安定な時期に、危険を冒して敢えて移動させたことは、たとえ他の患者に配慮したための処置であったとしても、極めて不適切な処置であったというべきである。

(二) 呼吸停止の原因

(1) 帰室後の午前一一時四〇分に口腔、鼻腔吸引を行った際、哲也が少し薄目をあけたという看護記録の記載は、ペンタゾシン七・五mgを投与された一時間二〇分後において、哲也の喉・咽頭反射などが抑制されていたことを強く示唆するものである。

それにもかかわらず、午前一一時四五分には哲也に対しアスベリン・ペリアクチンのシロップ剤が経口投与されている。

喉・咽頭反射が抑制されている際、水剤ないしシロップ剤を経口投与することによって起こりうる合併症として、喉・咽頭性の異物刺激によって喉頭痙攣が起こり窒息することがあるのであり、本件ではシロップ剤の経口投与から、口唇色蒼白、自発呼吸なし、大腿動脈触知不可と記載されるまでの時間経過は約一八分であること、午後零時三分に気管内挿管がされ吸引が行われているが、ドライと記載されていることなどからみて、シロップ剤の経口投与により、哲也には喉頭痙攣が起こり窒息状態に陥ったが、同人の意識レベルが低下していたために苦悶状態をあらわす強い反射が見られぬままに呼吸停止に至ったものであると推認すべきである。

(2) また、麻酔導入後、気管内チューブ挿管前に局所麻酔薬(キシロカイン四%)のスプレーを受けているため、これにより喉頭あるいは気管に浮腫を起こし、抜管後これが進行して帰室後は気道狭窄の傾向にあった可能性がある。

さらに、全身麻酔からの覚醒期にペンタゾシン七・五mgが静脈注射されており、帰室後、肩枕挿入が行われており、喘鳴が続いていることから、この時期に舌根沈下傾向にあったと考えられるのである。

そして、午前一〇時五二分に帰室した際、喘鳴のほかに、口唇色やや白っぽい、あるいは顔面白っぽいという記載があるが、これは哲也が帰室してから呼吸停止が発見された午後零時三分までの間、酸素欠乏ないし末梢循環不全状態にあったことを示しており、これに関する処理が講じられていないことも呼吸停止の遠因となったものと考えられる。

(三) 損害

(1) 本件手術を受けるに当たり、哲也の法定代理人である原告らと被告の間に前記の診療契約が成立したものであるところ、被告病院の前記注意義務違反の行為により、契約の本旨に反した不完全な診療を受けた結果、哲也は死亡したものであるから、被告は哲也の死亡につき債務不履行責任を免れない。

また、被告病院の担当医師及び看護婦らの前記所為は同時に過失行為にも当たるから、被告は民法七一五条、七一〇条により不法行為責任を免れない。

(2) 逸失利益 各一六五〇万円

哲也は死亡当時二歳の男児であったから、男子の全年齢平均月収三二万四二〇〇円をもとに、生活費控除五割、ホフマン係数一七・〇二四を用いて算出すると、哲也の逸失利益は三三〇〇万円を下らないものであり、哲也の両親である原告らは右逸失利益の二分の一に当たる各一六五〇万円を相続により取得したものである。

(3) 慰藉料 各一〇〇〇万円

その日の内に退院できるような簡単な手術で大切な長男を失った原告らの驚き、悲しみは深く、その後の担当医師らの死因に関する不誠実な弁明に対する怒りも大きい。本件事故後、四か月間意識障害が続いた哲也の看護に当たった原告らの心労、諸経費等の負担をも総合すると、本件の原告らの慰藉料は各一〇〇〇万円が相当である。

(4) 墳墓・葬祭費 各五〇万円

(5) 弁護士費用 各三〇〇万円

よって、原告らは、被告に対し、それぞれ金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告

(一) 診療契約上の注意義務違反又は過失の存在に関する原告らの主張はすべて争う。

(1) 手術適応について

哲也は、昭和六三年一月一八日の時点で既に満二歳を超え、水腫も大きく膨張傾向が見られ、自然治癒傾向になく、交通性の可能性もあり、鼠径ヘルニアに発展する危険性が存在したのであるから、その症状が、手術の時期等に関する一般的基準に合致していたことは明らかである。

(2) 説明義務違反について

本件陰嚢水腫とその手術に関し、担当医師等は、病状、手術の内容、その危険性等について、必要かつ十分な説明をしているものである。

(3) ペンタゾシンの過剰投与について

ペンタゾシンを幼小児に投与することは格別禁止されておらず、慎重投与しなければならないものでなく、むしろ、体重当たりで適切な投与量が決せられ、哲也の体重である一二kgの場合、六ないし一二mgが望ましく、また、静脈注射の方が筋肉注射より効果及び術後管理の上で適切であるとされているのである。哲也は、麻酔からの覚醒後、興奮のため安静にできないことから、幼小児であることを考慮して当時の体重一二kgに対してペンタゾシン七・五mgを処方し、鎮痛及び安静を保つ目的で、施用中の点滴の三方活栓から注入して、滴下注入を利用したもので、ペンタゾシンの適応、投与量等はいずれも適切であったことは明らかである。

(4) 麻酔管理の誤り及び帰室後の監視・観察の不備等について

麻酔担当医師は、手術終了後、午前一〇時四〇分までは手術室で、午前一〇時五五分までは手術室付設の回復室で、哲也を監視し、麻酔からの回復状況、合併症、その他の危険について、哲也の容体を十分に監視・観察して必要な措置を施すとともに、移動しても危険がない旨判断して手術室から回復室へ、回復室から病室へと移動させたものであり、また、病室に移動後、看護婦らは、頻回にわたって、哲也の経過観察に病室を訪れ、哲也の状況に異常がないかについての監視を続けていたものである。

この点に関する被告病院の記録に不備はない。

また、仮に、哲也を手術室や回復室に留め置いて監視していたとしても、呼吸停止の早期発見は困難であったもので、いかに監視体制を強化しても回避できないほどの突発事故であったことが明らかであるから、哲也に対する監視ないし管理に不適切な点があったとしても、そのことと哲也との死亡との間には因果関係は存しない。

(5) アスベリン・ペリアクチンの投与時期の誤りについて

ア アスベリン・ペリアクチンを投与した際、哲也が覚醒状態にあったことは明らかであり、右両剤による気道閉塞はなく、右投与と哲也の死亡との間に因果関係は認められない。

すなわち、哲也を回復室から外科病棟に移動し、搬送用のベッドから病室のベッドに移す時、哲也は薄目をあけ、筋の緊張が保たれていたことが認められること、病室において口腔、鼻腔を吸引するため吸引器を挿入した際、少し薄目をあけた上、いやがって首を振るようにして動かして暴れたこと、アスベリン・ペリアクチン投与の際、呼びかけると目を開けて、口を開けてというと口を開け、上手に嚥下したこと等から、当時哲也は投与に十分な覚醒状態にあったと認められる。

また、両剤は、比較的飲み易い水剤で、しかも一・五mlという極少量であったことなどから、誤嚥や気道閉塞もなかったことは明らかである。

イ 両剤の投与は、ペンタゾシン投与から一時間二〇分経過後にされたものであるところ、ペンタゾシンの効力は、麻酔後であっても一般的には約三〇分で解消するとされていること等からみて、両剤投与の時点ではペンタゾシンの影響はないか、又は低くなっていたもので、哲也が半覚醒状態であったとか、咽頭痙攣を起こしたとかいう結論の積極的根拠となるものではない。

さらに、口唇色がやや白っぽいとの記載は、何ら覚醒状態にないことを基礎づけるものではないし、喘鳴も、当時の状況からみれば、痰や唾による湿性のものと認めるのが相当であって、このことから半覚醒状態で軽度の舌根沈下による気道狭窄による可能性が大であるとまでいうべきではない(当時の記録からみれば、呼吸状態が正常であったことは明らかで、この点からも舌根沈下や気道狭窄があったということはできない。)。

なお、肩枕の挿入は、被告病院において、麻酔手術後帰室した幼児に対し全例実施されているものであって、このことが舌根沈下を疑う根拠となるものではない。

口腔、鼻腔吸引の際、すこし薄目を開けたとのことも、当時、同時に首を動かして暴れている等の前記の事実関係の下においては、意識レベルが非常に低下していて反射が抑制されていたと推認する根拠となるものではない。

(6) 救急措置の不適切について

ア 被告病院としては、哲也の呼吸停止の発見後、可能な限りの適切かつ十分な蘇生措置をとったものである。

午後零時一五分に採血され、二〇分に測定された検査結果は、急性循環停止後の回復データとしては特に問題になるほどの値ではなく、むしろ、心マッサージが効果的に行われたため代謝産物が細胞から流出した結果と考えられ、午前零時三五分に採血された検査結果が著しく改善されていることからも蘇生術は適切に行われたものと考えられる。

イ 一般病室から個室への転室の際も、事前に気管内挿管を通じてのアンビューバッグによる人工呼吸に切り換えて換気を保ち、かつ、心マッサージをしながら行ったものであり、転室は短距離でそれに要した時間も極めて短時間であったことから、その間の蘇生措置に遺漏はない。

(二) 呼吸停止の原因

(1) 前記のとおり、アスベリン・ペリアクチン投与の際、哲也は十分な覚醒状態にあったもので、そのような状態において喉頭痙攣が起きた際には、必ず激烈な症状が起こり、チアノーゼが発生するものである。すなわち、その症状の特徴としては、奇異呼吸の症状(呼吸時に鎖骨上窩、肋間、胸骨などが陥没し、腹壁が下方に牽引される、呼吸音の異常、呼気の延長、初期に頻脈、血圧上昇し、後では不正脈、徐脈)が現れるのであって、覚醒状態が低くても、自発呼吸があった場合には、それまでは息ができていたのに急に息ができなくなるのであるから、激しく異様な苦悶状態を呈し、意識状態に関係なく直ちにチアノーゼを呈するものである。

しかるに、本件のカルテや看護記録にこのような喉頭痙攣が起こったことを推測させる記載は一切ないのであるから、本件において、喉頭痙攣が起こったと判断するのは根拠を欠き、明らかに誤りである。

また、麻酔スプレーによる喉頭気管の浮腫の可能性も、当時の具体的状況からみてありえない推論である。

(2) 哲也は、手術当日の朝、ベッドから転落し、頭部を打撲しているのであり、事故発生後に頭部CT検査を行ったところ、後頭葉下面に高吸収領域があり、外傷性クモ膜下出血の可能性が認められたのであり、頭部打撲による脳損傷に麻酔侵襲が加わり、医学常識では考えられない時期に中枢性呼吸抑制が現れ、呼吸停止に至ったものと考えざるを得ないものである。

(三) 原告らの損害に関する主張は、いずれも争う。

第三  当裁判所の判断

一  診療契約上の注意義務違反又は過失の存在について

1  手術適応について

(一) 《証拠略》によると、陰嚢水腫のために睾丸の圧迫や虚血が認められる場合等には手術が必要とされるが、それ以外のものに対する処置については必ずしも一定の見解があるわけではないところ、鑑定人村上誠一(金沢大学医学部教授〔麻酔学教室〕の鑑定結果(以下「村上鑑定」という。)及び証人小坂義弘(島根医科大学医学部教授〔麻酔学〕)の証言(以下「小坂意見」という。)によると、現在の医療水準においては、陰嚢水腫に対する手術は、ほぼ安全かつ確実に実施されること、陰嚢水腫は二歳以上では自然治癒率が低下すること、また、鼠径ヘルニアに発展する危険性があることの諸点から考えて、これに対する手術が必要とされるのは二歳を過ぎて自然治癒傾向がない場合とされていることが認められる。

(二) 哲也については、本件手術の時点では、年齢も満二歳を超え、水腫の大きさも五cm×四cmであって、膨張傾向が見られ、自然治癒傾向が認められなかったことなど前記の事実関係からみて、手術が必要とされる場合である前記の一般的基準に合致していたものということができるから、哲也に対する本件手術の適応があったことは明らかというべきである(村上鑑定、小坂意見)。

2  説明義務違反の主張について

(一) 《証拠略》によると、昭和六三年七月一二日の被告病院第一外科における初診時において、哲也につき右陰嚢水腫と診断した担当医師は、原告千恵に対し、陰嚢水腫の原因、治療方法、自然治癒的傾向等について説明し、「二歳になる九月ころまで様子をみて変化がなければ手術を考えましょう。」と説明したこと、同年一〇月一八日の再診時において、担当医師は、原告千恵に対し、哲也の陰嚢水腫が大きく、縮小傾向が認められないことから手術を勧め、「手術としては比較的簡単な手術ですから、前日入院で手術の日は特に問題がなければその日の夕方には帰宅できる。」旨、また、麻酔手術の危険性については、「大丈夫ですが、一〇〇%安全というわけではない。」旨の説明をした上、手術の実施につき原告千恵の承諾を得、更に同原告の都合を聴いて、前記のとおり手術日を予定したことが認められる。

(二) 右認定の事実関係によると、被告病院の担当医師は、原告千恵に対して、陰嚢水腫について概括的に説明し、更に、哲也の陰嚢水腫が大きく、縮小傾向がないことから将来的に自然治癒する可能性はないものと判断して、前記の一般的基準に従って手術を勧めたこと、手術の危険性についても、基本的には大丈夫であるが、一〇〇%安全というわけではないとの趣旨を説明したというのである。

右程度の説明は、患者に対する本件陰嚢水腫とその手術に関する説明として、十分な内容を有するものというべきであるから、医師としての説明義務に違反しているということはできない。

3  ペンタゾシンの過剰投与について

(一) ペンタゾシンは、各種疾患における鎮痛、麻酔前投薬、麻酔補助に効能を有するとされる鎮痛剤であって、副作用として軽度の呼吸抑制がみられることがあるとされている。

ペンタゾシンの添付文書には、ペンタゾシンの幼小児への投与に関する安全性は確立されていないので投与しないことが望ましいと記載されているが、右記載は幼小児に対する投与を禁止しているものとまではいえず、他方、《証拠略》によると、小児麻酔に関する一般的な医学書にはペンタゾシンを幼小児に投与することを前提とした記載があることが認められることにもかんがみると、これを幼小児に投与するかどうかは、現にその治療に当たる医師の適切な判断に委ねられているものと考えられる上、村上鑑定によると、現在の一般的臨床実務においても、呼吸及び循環管理が適切に行われていることを前提として、麻酔管理に際して前投薬としてばかりでなく、抜管後の興奮状態を鎮静化させる目的でペンタゾシンを幼小児に静脈内投与することはしばしば実施されているものと認められる。そして、その場合における投与量については、前記証拠によると、体重一kg当たりペンタゾシン〇・五ないし一mgの静脈注射と投与後三〇分の経過観察を行うことが望ましいとされていることが認められる。

(二) 前記の事実関係によると、被告病院の麻酔担当医師は、抜管後の鎮痛及び安静を保つ目的で、哲也に対しペンタゾシン七・五mgを三方活栓から静脈注射したものである(《証拠略》によると、麻酔担当医は哲也の体重を一二kgとして投与量を決定したものであるが、正確にいうと、哲也の体重は、前記したとおり一一・四kgであった。)。

前記の説示に照らすと、この担当医師の行為をもって、医療上不適切であったと断定することはできないものというべきである(村上鑑定、小坂意見)。

4  麻酔管理の誤り、帰室後のバイタルサインの観察の不備及びアスベリン・ペリアクチンの投与について

(一) 麻酔担当医師は、哲也に対する手術終了後、午前一〇時二〇分、気管内チューブを抜管し、午前一〇時二五分、覚醒し始めた哲也に対してペンタゾシンを静脈注射して鎮静させた上、午前一〇時四〇分までは手術室において、午前一〇時五五分までは手術室付設の回復室において、哲也を監視し、その都度麻酔からの回復状況等を観察して移動しても危険がない旨判断して手術室から回復室へ、回復室から一般病室へと哲也を移動させたものであること、午前一〇時五二分、一般病室に移動後、午前零時三分、哲也の自発呼吸が停止していることに気付くまで、看護婦らが哲也の経過観察に数回病室を訪れ、哲也の状況に異常がないかについての監視を続けていたが、病室に移動直後の時点でバイタルサイン(体温、脈拍数、呼吸数)の記録がされたものの、その後は、前記程度の喘鳴、呼吸数、口唇色、顔色等の記録があるだけでバイタルサインの記録が行われていないこと(午前一一時二〇分以後は呼吸数の記録はない。)、午前一一時四五分、アスベリン・ペリアクチンの経口投与が行われたことなど前記の事実関係のとおりである(なお、アスベリン・ペリアクチンの投与量が一・五mlを超えていたと認めるに足りる証拠はない。)。

(二) 麻酔担当医師は、手術の終了とともにハロセンと笑気の混合ガスの投与を中止し、一〇〇%酸素の吸入に切り替えて一〇分置いた後に哲也から気管内チューブを抜管したものであって、その時点における麻酔の覚醒度からみて、格別不適切な時期であったとすることはできない(村上鑑定、小坂意見)。

(三) 《証拠略》によると、麻酔後管理における回復室の一般的な役割として、患者の麻酔からの覚醒の確認と手術及び麻酔終了後比較的早期に発現する合併症の予防、発見、治療等が掲げられており、これらの記載に村上鑑定を併せ検討すると、ペンタゾシン等の術後鎮静薬投与後においては、少なくとも三〇分間は患者を回復室に置いたまま、密度の高い観察を行うのが、医療上妥当な措置であると認めるのが相当である。

そして、村上鑑定は、前記の事実関係(前記時刻に前記分量のペンタゾシンが投与されていること)の下においては、回復室における観察が短時間に過ぎ、この段階での一般病室への移動はやや早いとする所見を述べており、小坂意見もこの所見に同意し格別の意見はないとの見解である。

これに対し、証人中尾正和(本件手術における麻酔管理のスーパーバイザー)は、回復室から移動して哲也を収容した一般病室(八三〇六号室)は、高密度の観察が実施されるという意味で病棟における回復室ともいうべき存在であるとして、右所見は不当である旨供述するが、同病室は、文字通り一般病室に過ぎず、手術棟における回復室と同等のものと評価することのできないことは、証拠上明白である(それゆえに、哲也は個室である八三二三号室に移動させる必要があったのである。)。

以上によれば、前記の哲也の回復室から一般病室への移動は、やや早期に過ぎ、医療措置として妥当を欠くものであったと評価するのが相当である。

(四) 村上鑑定によると、哲也が帰室してから同児の異常に気付くまでの看護婦の前記程度のバイタルサインの観察・記録は、抜管及びペンタゾシン静脈注射後の時間経過から考えて、手術後の観察・記録としてはやや不適切とされており、小坂意見も基本的にはこれに同意している。したがって、本件におけるバイタルサインの観察・記録は、ペンタゾシンを静脈注射した後の術後の観察・記録としては適切とはいえないものといわざるを得ない。

証人桧山英三(担当医)は、看護婦は巡回の都度、バイタルサインの検査はしたが、問題がなかったので記録していないものであると供述するが、看護記録等にそれに見合うバイタルサインの記載がない本件の証拠関係の下において、他に右の点を客観的に裏付ける資料がない以上、看護婦がバイタルサインの検査を実際に行ったものと認定することは困難というべきである。

(五) アスベリン・ペリアクチンの投与時期について

(1) 村上鑑定、小坂意見及び弁論の全趣旨を総合すると、麻酔後の覚醒が十分でなく、喉、咽頭反射が抑制されている小児に対して本件アスベリン・ペリアクチンのようなシロップ剤を投与することは、呼吸抑制作用を増幅する合併症を生じさせるおそれのある危険な医療措置であるから、麻酔後の小児にこれらの薬剤を経口投与するに当たっては、事前に小児の覚醒状態を確認することが不可欠であることが明らかである。

(2) 村上鑑定は、哲也に対しては、前記のとおりペンタゾシンが静脈注射されているところ、午前一一時四五分(アスベリン等の投与時刻)の時点においてペンタゾシンの血中濃度が十分に低下していたという証拠はなく、その効力がなお持続していたと推認されること、帰室後しばしば記録されている喘鳴は、風邪ないし気管支炎によるものではなく、半覚醒状態での軽度の舌根沈下による気道狭窄によるものであった可能性が大きいこと、午前一一時四〇分に口腔・鼻腔吸引を行った際、哲也が少し薄目をあけたという事実は、当時哲也の咳嗽反射・嚥下反射などが抑圧されていたことを物語ること等により、前記アスベリン・ペリアクチン投与当時、哲也は未だ半覚醒の状態にあったことが強く示唆されるとし、したがって、この時点における両剤の投与は尚早に過ぎ、この経口投与は危険を伴う可能性があったとする所見を述べている。

(3) これに対し、被告は、乙第二七号証(三五七頁)の記載を根拠にして(これを援用、支持するものとして乙第四七号証、証人中尾正和の証言、小坂意見がある。)、ハロセン、笑気及び酸素による麻酔を使用した成人患者一〇名に対し、手術後回復室で疼痛出現後、体重一kg当たりペンタゾシン〇・五mgの割合によって静脈注射した場合のペンタゾシンの血中濃度は、六〇分後には最高値の約二〇分の一に下がっているのであり、右の例と本件とでは成人と小児の違い以外は条件がほとんど同一であり、かつ、成人と小児の間で大きな違いはないのであるから、哲也の場合も同様の経過でペンタゾシンの血中濃度が減少していったであろうことが強く推測され、午前一一時四五分の時点ではペンタゾシンの効力は極めて低下していた、原告千恵が哲也の喘鳴について乾性のヒューヒュー音であることを否定していること、哲也は手術の前日に鼻汁が認められたのでアスベリン・ペリアクチンを処方されていたものであり、かつ、看護婦は哲也の喘鳴を聞いて湿性のものと判断したからこそ吸引を行い、更に風邪薬であるこれらの薬剤を投与したものであること等からみて、哲也の喘鳴は湿性のものであって、舌根沈下を示唆するものではないこと、帰室後の哲也の状態は、回復室から外科病棟に移動し、搬送用のベッドから病室のベッドに移す時、哲也は薄目をあけ、筋の緊張が保たれていたことが認められること、病室において口腔、鼻腔を吸引するため吸引器を挿入した際、少し薄目をあけた上、いやがって首を振るようにして動かして暴れたこと、アスベリン・ペリアクチン投与の際、呼びかけると目を開けて、口を開けてと言うと口を開け、上手に嚥下したこと等から、哲也は、当時、これらの経口投与に十分な覚醒状態にあったと主張している。

(4) そこで、これらにつき、順次検討する。

ア まず、ペンタゾシンの影響についてであるが、本件においては、哲也の体重を一二kgとしてペンタゾシン七・五mgが投与されたのであるが、哲也の体重は正確には一一・四kgであったことは前記のとおりであるから、一kg当たりの投与量は〇・六五八mgとなるのであって、被告が援用する例(〇・五mg)とは明らかに前提が異なっているのであり、かつ、哲也が二歳の小児であることを考えると、両者の条件がほぼ同一であるとして判断をすることが妥当といえるかどうか疑問が残るといわざるを得ない。のみならず、乙第二七号証の記載によれば、ペンタゾシンの血中濃度を決めるのは、尿排泄率あるいは代謝率であり、これは個体差が大きいとされており、血中濃度の測定値は標準偏差がかなり高いことが観察されたことも明らかであり、哲也にはペンタゾシンの血中濃度の減少を明らかに阻害するような肝臓・腎臓機能障害等がなかったとしても、本件の場合、被告主張のような経過でペンタゾシンの血中濃度が減少していったであろうことが強く推測されるとまではいえない(村上鑑定)。

イ 次に、哲也の喘鳴の原因が何であったかについて検討する。

この点に関し、村上鑑定人は、前記のように判断した根拠として、喘鳴が発生する場合には気道内の異物による場合と気道狭窄の場合とがあるが、午前一一時四〇分の吸引措置によっては白色痰極少量しか吸引されなかったこと、午後零時三分の挿管時、「吸引するもdry」と記載してあることからみて、喉・咽頭腔気管内には液状物がほとんどなかったことが推定されるから、これらの時点で、哲也には気道閉塞とまではいえないものの、気道狭窄があったと考えざるを得ず、しかも、その原因は、右のとおり気管内の異物によるものではないことから、舌根沈下と推定できるという。

そして、原告千恵は、哲也の喘鳴は、いびき様のものであったと供述して、ヒューヒューという音(乾性音)であったことを否定すると同時にゼーゼーという音(湿性音)であったことも否定しているのであるから、原告千恵の供述を根拠として哲也の喘鳴が湿性のものであったと断定するのには無理があるというべきである。むしろ、右のとおり、いびき様の喘鳴というのであれば、舌根沈下が起こっていたものと判断することと矛盾しない事情とも考えられるのであり(《証拠略》には、上気道閉塞の症状として、いびき様雑音が挙げられている。)、しかも、前記のとおり、午前一一時四〇分の吸引措置により白色痰が極少量しか吸引されなかったこと、午後零時三分の挿管時、「吸引するもdry」と記載されていることからみると、喉・咽頭腔気管内には液状物がほとんどなかったことが推定されるのであって、このことは、その時点では鼻汁等がなかったとする村上鑑定人の指摘する事実に適合するものというべきで、被告の右主張とはそぐわない。

また、看護婦が喘鳴を湿性と判断したとしても、右のように液状物がほとんど吸引されなかったという客観的事実からして、看護婦の右判断が適切なものであったことについては疑問を容れる余地があるというべきである。

そうすると、被告の右の反論にもかかわらず、哲也の喘息の原因は、舌根沈下による気道狭窄である可能性が高いとする村上鑑定の推論の合理性は否定されないものと考えられる。

ウ さらに、帰室後の哲也の状態についてであるが、被告指摘の事実関係のうち、アスベリン・ペリアクチンを上手に嚥下したとのことは、看護記録には記載されているけれども、上手かどうかの判断は主観的な判断であり、右の点については、原告千恵が、それと異なり、流し込まれるような感じで哲也は薬を飲んだと供述していること、そもそも哲也に投与されたアスベリン・ペリアクチンはわずか一・五mgに過ぎないから、嚥下したのか流し込んだのかどうかの判断自体微妙であることにもかんがみると、看護記録の記載を直ちに採用できるものかどうか、疑問が残るといわざるを得ない。

また、その余の点(薄目を開けたとの点を除く。)については、カルテ、看護記録等には記載されていない(原告千恵は、哲也に対して呼び掛けをしたことを否定している。)のであって、そうである以上、本件においてそのような事実があったことを前提とした判断をすることが適切かどうかについては疑問なしとしない。

なお、被告は、薄目を開けるというのは大脳の機能を伴った反応であり、このような反応があった以上、喉頭反射も保たれていたものであるとするが、そもそも薄目を開けたかどうかとの判断自体微妙である上、《証拠略》によると、薄目を開けるという反応は、覚醒状態を判断する上では最も基本的な反応であることが認められるから、薄目を開けるという反応の存在から直ちに大脳の機能を伴った反応であるといえるかどうか疑問があるというべきである。

このようにみてくると、被告が哲也が覚醒状態にあったとして指摘する論拠はいずれも疑問の余地があり、かえって、二歳児である哲也が、口腔・鼻腔吸引を何ら抵抗なく実施させたことは、この時点における意識レベルが低かったとの判断に合致する事情というべきである(村上鑑定)。

エ 最後に、前記の事実関係を総合的にみるに、哲也はペンタゾシン投与による鎮静後、午前一一時四五分に至るまでの間、帰室後ただ喘鳴を発しつつベッド上に横臥するだけで、覚醒を窺わせる積極的状況が全くみられないことも指摘しておきたい。甲第九号証(最新麻酔科学・下巻、一一七三頁)には、ペンタゾシン静脈注射によりいったん入眠した患者も、約三〇分後には興奮のない状態で覚醒する、とあり、また、被告が援用する前記乙第二七号証にも、ペンタゾシンの血中濃度が〇・〇三μg/ml以下に減少すると、患者が痛みを訴える例が多かったことから、血中濃度と疼痛の発現には明らかな関連性が認められた、とあるが、哲也の前記状況は、これらの記述とそぐわず、むしろ、当時意識レベルが低下していたと推認されるとする村上鑑定の推論に適合するものというべきである。

(5) 以上説示したところによると、村上鑑定の所見は、採用に値する合理性を備えているものというべきであり、被告の種々主張するところを考慮しても、その推論及び結論の合理性を覆すには至らない。

そうすると、哲也にアスベリン・ペリアクチンが投与された際、哲也は舌根沈下による気道狭窄により半覚醒の状態にあったものと推認するのが相当であり、そのような状況下でこれらの薬剤を経口投与すれば、喉頭痙攣を引き起こし、呼吸停止に至る危険性が大であったのであるから、右のような被告病院側の措置は、医療行為として適切を欠くものというべきである(なお、小坂意見も、本件事実関係の下において、アスベリン・ペリアクチンの投与時期が尚早に過ぎるとの結論自体については村上鑑定に同意する旨述べている。)。

5  救急措置の不適切について

(一) 午後零時二〇分の血液ガス分析の検査結果の数値は前記のとおりである。確かに、右の血液ガス分析の数値が正常値の範囲を逸脱していることは明らかであるが、小坂意見によれば、二歳児の場合、救命措置が開始されてから血液ガス分析の数値が正常値に近づくには一〇分ないし一五分程度かかることが認められるのであるから、哲也の呼吸停止発見から一七分後の血液ガス分析の数値の値が前記のような程度にとどまっているからといって、直ちにその間の救急措置が不適切であったと断定することはできない。

村上鑑定のうち、これに反する部分は、小坂意見との対比において採用することができない。

(二) また、その間、午後零時八分、哲也を一般病室から個室に移動させたことについても、機器類の搬入や多数の医師、看護婦が診察に当たるのに便利であるとの判断の下に、人工呼吸、心マッサージを続行しながら移動したことは前記のとおりであり、小坂意見に照らすと、そのことが特に不適切であったということはできないものというべきである。なお、甲第二〇号証に記載されているような方法であれば、移動中であっても人工呼吸、心マッサージを行うことは不可能ではないと認められる。

村上鑑定のうち、右の移動を不適切とする部分は、小坂意見との対比において採用しない。

二  呼吸停止の原因について

1  村上鑑定に既に説示したところを総合すると、哲也は、手術終了後静脈注射されたペンタゾシンの効力がなお持続し、軽度の舌根沈下による気道狭窄により、喉、咽頭反射が抑圧されて半覚醒の状態にあったところに、アスベリン・ペリアクチンを経口投与された結果、喉、咽頭の異物刺激によって喉頭痙攣を引き起こし、呼吸停止に至ったものと推認するのが相当である。

被告は、アスベリン・ペリアクチン投与の際、哲也は十分な覚醒状態にあったもので、そのような状態において喉頭痙攣が起きた際には、必ず激烈な症状が起こり、チアノーゼが発生する。すなわち、その症状の特徴としては、奇異呼吸の症状(呼吸時に鎖骨上窩、肋間、胸骨などが陥没し、腹壁が下方に牽引される、呼吸音の異常、呼気の延長、初期に頻脈、血圧上昇し、後では不正脈、徐脈)が現れるのであって、覚醒状態が低くても、自発呼吸があった場合には、それまでは息ができていたのに急に息ができなくなるのであるから、激しく異様な苦悶状態を呈し、意識状態に関係なく直ちにチアノーゼを呈するものである。しかるに、本件のカルテや看護記録にこのような喉頭痙攣が起こったことを推測させる記載は一切なく、喉頭痙攣が起こったと推認するのは根拠を欠くと主張し、小坂意見もこれに沿う。

しかしながら、村上鑑定によれば、喉頭痙攣は、半覚醒の時期に、腔内分泌物による喉頭刺激、吸引操作の刺激などにより起こるとされているところ、意識レベルが著しく低下している場合には、たとえ、咽頭痙攣が起こったとしても偽声門や被裂喉頭蓋ヒダの著しい接近、苦悶状態、チアノーゼなどの反射や反応の発現、進行は極めて微弱かつ緩徐であることが認められるのであるから、哲也に苦悶症状がないからといって直ちに同児に喉頭痙攣が起こったことを否定することは適切とはいえない。

小坂意見は、採用できない。

2  また、村上鑑定はその他想定できる呼吸停止の原因ないし遠因として、麻酔導入後気管内チューブ挿管前にされた局所麻酔剤のスプレーにより生じた喉頭あるいは気管の浮腫に起因する気管狭窄経口、帰室後のバイタルサインの観察・記録により示唆される酸素欠乏ないし末梢循環不全放置により生じた喉頭痙攣の準備状態を挙げるが、前者は、必ずしも証拠上証明十分なものとまでいうことはできず、また、後者は、鑑定者自身、遠因となったことも考えられるとするに過ぎないものであるから、敢えて、本件における呼吸停止の直接の原因とまで認定することには至らないものである。

3  また、被告は、哲也は、手術当日の朝、ベッドから転落し、頭部を打撲しているのであり、事故発生後に頭部CT検査を行ったところ、後頭葉下面に高吸収領域があり、外傷性クモ膜下出血の可能性が認められたのであり、頭部打撲による脳損傷に麻酔侵襲が加わり、医学常識では考えられない時期に中枢性呼吸抑制が現れ、呼吸停止に至ったものと考えざるを得ないとも主張し、小坂意見もこれに沿う。

しかしながら、前記のとおり、CT検査によって外傷性クモ膜下出血の可能性を否定できないと判断がされた後、眼底検査、脊髄液検査が行われ、その結果、眼底所見は正常、頭蓋内出血は否定的との判定がされたものであり、これらの事実に弁論の全趣旨を総合すると、哲也には右の頭部打撲による脳損傷の具体的可能性はほとんどないと判断するのが相当であるから、被告の右主張は前提を欠くというべきである。

4  そして、訴訟上の因果関係の証明が一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、高度の蓋然性を証明することで足りるとされていることにもかんがみると、本件において、哲也の死因は、前記したとおり、半覚醒状態にあったところにアスベリン・ペリアクチンを経口投与された結果、喉頭痙攣を引き起こし、呼吸停止に至ったことによるものであると推認するに十分である。

三  責任原因及び損害

1  責任原因

以上のとおり、被告病院の担当医師及び看護婦は、哲也の手術終了後、回復室において十分な観察時間を置かないまま、早期に一般病室に哲也を移動させた上、一般病室での術後の監視が不十分であったため、哲也が半覚醒の状態にあったことを看過し、かつ、そのような状態にある哲也に対してアスベリン・ペリアクチンを経口投与したことにより、喉頭痙攣を生じさせて呼吸停止に至らせ、その結果、その後の治療にもかかわらず哲也を死亡させたものであるから、被告は、民法七一五条、七一〇条により、原告らに生じた損害を賠償する責任を免れないものというべきである。

2  原告らに生じた損害

(一) 哲也の逸失利益

哲也は、死亡当時二歳の男児であったから、平成元年の一八・一九歳の男子労働者(全学歴計)の平均賃金(年収)二〇五万三〇〇〇円をもとに、生活費控除五割、新ホフマン係数一七・〇二四を用いて算出すると、同児の逸失利益は一七四七万五一三六得である。

(算式)2,053,000円×17.024×0.5=17,475,136円(円未満切捨て)

哲也の両親である原告らは右逸失利益の二分の一に当たる各八七三万七五六八円を相続により取得したものである。

(二) 慰藉料

前記事実関係を総合すると、本件事故により原告らが被った精神的苦痛を慰藉するためには、各一〇〇〇万円を要すると認めるのが相当である。

(三) 墳墓・葬祭費

《証拠略》によると、哲也の葬祭費として、原告らは共同して八四万八〇〇〇円を支出したこと、また、原告らが哲也の墳墓を近い将来建立することは確実であると認められる。そして、前記葬祭費の額と原告らが将来支出するであろう墳墓建立の費用との合計額は、社会通念上各五〇万円を下ることはないものというべきであるから、これらに関する原告らの損害は、各五〇万円と認めるのが相当である。

(四) 弁護士費用

原告らが本件訴訟を提起遂行するため、弁護士を選任する必要のあったことは明白であるところ、本件事件の性質・難易度等を考慮すると、本件と相当因果関係にある弁護士費用は、各一八〇万円と認めるのが相当である。

(五) 以上のとおりであるから、原告らの被った損害は、それぞれにつき、合計二一〇三万七五六八円となる。

第四  結論

よって、原告らの本訴請求は、被告に対し、それぞれ金二一〇三万七五六八円及びこれに対する不法行為の結果発生の日(哲也の死亡の日)である平成元年三月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

なお、仮執行宣言については事案にかんがみ言渡し後一週間の猶予期間を定めることとし、同免脱の宣言の申立てについては、不相当と認め、却下する。

(裁判長裁判官 田中壮太 裁判官 野島秀夫)

裁判官 稻葉重子は転補につき署名押印することができない。

(裁判長裁判官 田中壮太)

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